(令和6年度答申第1号)                          答 申 1 審査会の結論  処分庁が,令和4年1月24日付け3調都外発第2990001号で「11月10日の調布市HP「個人情報の漏えい・・・」の9件について調布市から提出先に送った送信メールおよび添付文書,並びに提供先からの応答文書」を文書等の存否の理由を明らかにしないで非公開決定とした処分は,取り消すべきである。 2 本件の経緯 年月日  経緯 令和3年11月25日  審査請求人は,調布市情報公開条例(平成11年調布市条例第19号。以下「本条例」という。)第6条第1項の規定により,市政情報公開請求書を処分庁に提出し,「11月10日の調布市HP「個人情報の漏えい・・・」の9件について調布市から提出先に送った送信メールおよび添付文書,並びに提供先からの応答文書」の公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。  処分庁は,同日付けで本件市政情報公開請求書(以下「本件請求書」という。)を受理した。   同年12月 9日  処分庁は,本件請求について,本条例第12条第2項の規定により公開決定等期間延長の通知を行った。 令和4年 1月24日  処分庁は,本件請求について,本条例第11条第2項の規定により市政情報非公開決定処分(以下「本件処分」という。)を行った。   同年 4月21日  審査請求人は,本件処分を不服とし,審査請求書(以下「本件審査請求書」という。)を審査庁に送付し,行政不服審査法(平成26年法律第68号。以下「法」という。)第2条の規定により,審査請求(以下「本件審査請求」という。)を行った。 審査庁は,同日付けで本件審査請求書を受理した。   同年 5月27日  処分庁は,法第29条の規定により,弁明書(以下「本件弁明書」という。)及び証拠資料を審査庁に提出した。 審査庁は,同日付けで本件弁明書及び証拠資料を受理した。   同年 6月28日  審査請求人は,法第30条の規定により,反論書(以下「本件反論書」という。)を審査庁に提出した。 審査庁は,同日付けで本件反論書を受理した。   同年10月 7日  審査請求人からの申出により口頭意見陳述を実施した。   同年10月21日  審査請求人から補充的書面の提出期限延長を求める申出があった。   同年10月24日  審査請求人から「不服審査請求令和4年度第3・4・5号事件についての意見書」と題する書面が提出された。   同年11月14日  審査庁は,期限内に処分庁から再弁明書及び補充的書面の提出がなかったことから審理を終結し,本条例第19条の2第1項の規定により,調布市情報公開審査会(以下「当審査会」という。)に諮問(以下「本件諮問」という。)を行い,諮問書とともに本件審査請求書,本件弁明書及び本件反論書の写し(以下「本件諮問書等」という。)を当審査会に提出した。  当審査会は,同日付けで本件諮問書等を受理した。 3 本件審査請求の内容 (1) 本件審査請求の趣旨  調布市長が審査請求人に対し行った本件処分の取消しを求める。 (2) 本件審査請求の理由    審査請求人の本件審査請求書,本件反論書,本件口頭意見陳述,補充的書面及び本条例第24条に基づく口頭での意見陳述における主張はおおむね以下のとおりである。   ア 「該当する文書,メールが存在しないため。」という理由はとうてい納得できるものではない。 イ 9件の当該情報公開請求書は2021.6.10付から2021.10・29 付の9件とのことである。匿名通報者から当該情報公開請求者に郵送された10月22日付消印の封書に同封されていたメール及び添付文書(10月1日付情報公開請求書),また,調布市長宅に郵送された封書に同封されていた当該メール及び添付文書(10月8日付情報公開請求書)はどこに存在していたのであろうか。また,調布市がこの件をホームページに公表した11月10日時点で,2021.10.29付の情報公開請求書までもが,メールサーバーから削除されているとのことだが,メールサーバーの容量に限界があるので,メール文書の取捨選別もせずに削除していたとの説明があるが,一週間程度で削除せざるをえないことは異常ではないか。短期間でのメール等の削除は,文書管理規定等に照らして妥当であろうか。「前回同様,取扱注意でお願いします。」などとの文面の文書の保存期間は保存期間の規程の30年から1年未満のどれに該当するのか。たとえ1年未満であってもその案件が終了するまでは保存する規定である。この件は,11月10日時点では,不服審査期間はもとより,情報公開決定さえも,そしておそらく送付先の事業者との調整もされてないだろうから,終了してない案件であり,文書管理規定等に違反している。 ウ 外部にメールを送るにあたって,組織として起案文書による確認,承認等の適正な手続きがなされなければならないはずだが,そのような文書も存在してないのであろうか。匿名通報文書によれば,「前回同様,取扱注意でお願いします。」など,明らかに違法性を認識していると思われるメールの文面であり,意図的にメールを削除していたと疑える。 エ 情報公開請求書を請求者の個人情報をマスキングすることなく外環3事業者に送付していることについては,職員の「個人情報保護の意識が希薄であった」との説明がされているが,事業者らの個人情報の保護の重要性についての意識は十分すぎるほど高いという事実に照らして検証すると,合理的説明といえない自己弁護の説明である。さらに,請求者の個人情報がマスキングされていても情報公開請求書を外部に送付する合理的目的などおよそ考えられないことである。提供先からの応答文書も存在しないとのことだが,どのような手段でどのような内容の応答がされたのか明らかにすべきである。 オ 請求者の個人情報をマスキングすることなく情報公開請求書を外環事業者に送付していたスキャンダルに係わる問題であるにもかかわらず,処分庁の反論は,「探索したがみつからなかった,ないものはない。情報公開請求等の決定は適切に行われている。」と木で鼻を括るような説明だけで,説明責任を果たしていない。第三者照会を行っていなかったので記録がないのか,行っていたが,記録が残らない方法だったのか,記録が残る方法で行っていたが,意図的に情報漏洩の記録を削除したのか,だから削除時に履歴は残さなかったのか,などなどを説明すべきである。 カ 都合の悪い文書やメール等を意図的に削除して「ないものはない」などと開き直るのでなく,開示すべきである。たとえば,11月初めに匿名者から市長の自宅に届いた封書に同封物(10月8日付の情報公開請求書の写し,街づくり事業課の職員から事業者へのメールの写し)は,令和4年4号事件及び5号事件の対象文書ではないか。   キ 令和4年度第4号事件は,まさに個人情報漏洩の条例違反の文書が対象ではないか。「争う」とのことだが,何を根拠に争うのか。「ないものはない」だけでは争えない。   ク 審査請求人としては,第三者照会をした際の意思決定に係る起案文書等が存在しないのは不当であるし, そもそも第三者照会において情報公開請求書自体を送付する合理的理由は全くないので,処分庁の文書管理,手続,情報公開制度の運用は全てでたらめであると考える。   ケ 「ないものはない」と開き直られても困る。個人情報をマスキングせずに情報公開請求書を外環事業者に9件送ったとする根拠が加害者の供述以外全くないということであり,加害者の舌先三寸で決まるような事実に信憑性はない。メールサーバーから削除されていても,バックアップサーバーから復元すべきである。そこにあるデータは組織共用文書であるし,百歩譲ってそうでないとしても,調布市ぐるみの「組織犯罪」の疑いが濃厚であるので,嫌疑を晴らしたいなら復元すべきである。復元しないのは違法・不当である。復元を求める。 コ 匿名者から市長宛に送られてきた10月8日付の情報公開請求書とメールが原本のコピーであるならば,少なくともその1件は公開すべきである。 4 処分庁による本件弁明書等の趣旨   本件弁明書等による処分庁の主張を要約すると,おおむね以下のとおりである。 (1) 弁明の趣旨  「本件審査請求を棄却する。」との裁決を求める。 (2) 本件審査請求に対する弁明  審査請求人は,本件処分における「市政情報を公開しない理由」の記載が,本件請求時点で当該文書が存在していないことの説明責任を果たしていないとの理由から,本件処分の取消しを求めている。しかし,本件請求の対象となる文書の存否を確認するため,執務室の行政文書を保管する場所及びコンピュータ上の電子ファイルを探索したが,不存在であったために非公開決定を行ったものである。本件処分の非公開理由において「該当する文書, メールが存在しないため。」ということ以上に明示できるものはなく,本件請求の決定は適切に行われている。 5 審査会の判断 (1) 本件請求の経緯  ア 令和3年11月,市政情報公開請求の手続過程において個人情報の不適切な取扱い事案が発覚した。本事案の内容は,東京外かく環状道路事業(以下「外環事業」という。)に関する市民からの市政情報公開請求において,市政情報公開請求書の写しを電子メールに添付して当該文書等を作成した機関に送信し,その際,請求者名等の記入欄にマスキング処理を施すことなく送信したことにより,請求者の個人情報が当該機関に漏えいすることとなったものである。 イ これらについて本事業に関する市の所管部署である都市整備部で事実確認を行ったところ,街づくり事業課において令和3年6月10日から同年10月29日までの市政情報公開請求書の写し9枚を電子メールで事業者へ送ったことが判明し,市は11月10日に「個人情報の漏えいに関するお詫びと御報告」として市ホームページでの公表を行っている。 ウ 外環事業に関する所管部署は都市整備部街づくり事業課であったが,令和4年1月から外環事業の所管部署は都市整備部付外環担当となった。そのため,本件請求の処分庁は外環担当である。 (2) 本件請求文書について   ア 本件請求文書は「11月10日の調布市HP「個人情報の漏えい・・・」の調布市から提供先に送った送信メールおよび添付文書並びに提供先からの応答文書」である。街づくり事業課が,市政情報公開請求の手続過程において,請求のあった文書等における非公開情報の有無を確認するため,令和3年6月10日から同年10月29日付けまでの市政情報公開請求書の写し9件を電子メールで事業者へ送ったもの及びそれに対する提供先からの応答文書と解すことができる(以下「本件請求文書」という。)。   イ 当審査会は,本件請求文書が不存在であるとした経緯について処分庁に確認したところ,処分庁が市政情報公開請求を受けた中には,事業者から提供された資料も多くあり,公開等決定に向けて内容の確認を行う中で,本条例第7条各号に該当する非公開とすべき箇所がないか事業者に確認を行う必要があった。事業者に対する確認方法は,電話や対面によるものであり,確認依頼とその回答についての文書やメールは存在しないことから,メール発信のための決裁文書も存在していないとのことであった。また本件請求時点において,本件請求文書は,執務室の文書を保管する場所及びコンピュータ上の電子ファイルを探索したが保管していないとのことであった。   ウ 他方で, 市ホームページでは,9件の電子メールについて事業者へ送ったことを公表していることからも,処分庁は,本件請求文書を事業者へ電子メールで提供した事実は認めている。 (3) 理由の付記について ア 審査請求人は,本件処分の理由の記載が不十分である旨主張している。 イ 本条例第11条第1項において,「実施機関は,公開請求に係る市政情報の全部又は一部を公開するときは,その旨の決定をし,公開請求者に対し,その旨並びに公開をする日時及び場所を書面により通知しなければならない。」とし,第2項において,「実施機関は,公開請求に係る市政情報の全部を公開しないとき(前条の規定により公開請求を拒否するとき及び公開請求に係る市政情報を保有していないときを含む。以下同じ。)は公開しない旨の決定をし,公開請求者に対し,その旨を書面により通知しなければならない。」と規定している。また,本条例第13条第1項においては,「実施機関は,第11条各項の規定により公開請求に係る市政情報の全部又は一部を公開しないときは,公開請求者に対し,当該各項に規定する書面によりその理由を示さなければならない。この場合において,当該理由の提示は,公開しないこととする根拠規定及び当該規定を適用する根拠が,当該書面の記載自体から理解され得るものでなければならない。」と規定している。  よって,本件のように,不存在を理由として非公開決定をする場合における理由の付記の程度について検討する。 ウ 処分庁が本件各文書を不存在であるとした経緯は,5(2)イのとおりである。処分庁は,本件請求時点で本件請求文書が存在しなかったことから,本件処分の理由を「該当する文書,メールが存在しないため。」としたとのことである。 エ 「情報公開事務の手引(令和2年度版)」においては,本条例第13条第1項の解釈として,「不存在決定の理由としては,不作成,未取得,廃棄等がある。」と示している。処分庁の説明によると,本件処分の理由には未取得又は廃棄が該当すると推察されるものの,本件処分の理由が本条に規定する「当該書面の記載自体から理解され得るもの」であるかは疑問である。  よって,「該当する文書,メールが存在しないため。」との理由では本条例の趣旨を満たすものではなく,非公開決定の処分をする際は,書面において本件請求文書の存否及びその理由を具体的に付記する必要がある。 (4) 対象文書の範囲について ア 審査請求人は,令和3年11月に発覚した不適切な個人情報の取扱いに関する匿名の通報者が調布市長宛に送付した文書(「以下「文書ア」という。)についても,本件情報公開請求の対象とすべきである旨主張している。  しかし,本件請求時点で,処分庁は文書アを保有していなかったとのことであった。さらに,本件請求書の請求する市政情報の件名又は内容を見るに,文書アまでもが対象文書であると解することはできない。よって,本件請求の対象とはなり得ない。 イ 審査請求人は,9件の電子メールがメールサーバーから削除されていたとしても,バックアップサーバー上に保存されているはずであり,そのデータも本件請求の対象である旨主張している。  メールサーバーから削除された電子メールについては,すでに組織共用性がなく「市政情報」として取り扱うことはできない旨,令和4年3月7日付け,当審査会意見書「市政情報公開手続における個人情報の不適切な取扱いについて」で述べたとおりである。本件処分についても,同様であり,処分庁の説明に,特段不自然,不合理な点があるとはいえず,これを覆すに足りる事情は認められない。   (5) その他    その他,審査請求人は縷々主張しているが,当審査会の判断に影響を及ぼすものではない。 (6) 結論     よって,「1 審査会の結論」のとおり判断する。 6 当審査会の処理経過   当審査会は,本件諮問について以下のように審査を行った。 年月日 処理経過 令和4年11月14日 審査庁から提出された本件諮問書等を受理 令和5年 9月28日 情報公開審査会(令和5年度第3回) 本条例第24条の規定による審査請求人の口頭での意見陳述, 処分庁の事情聴取   同年11月20日 情報公開審査会(令和5年度第4回) 審査  令和6年 1月29日 情報公開審査会(令和5年度第5回) 審査    同年 3月28日 情報公開審査会(令和5年度第6回) 審査 7 調布市情報公開審査会委員 職名 氏名 備考 会長 草川 健 弁護士 副会長 井上 寛 弁護士 委員 稲益 和子 弁護士 委員 佐藤 惠子 市民 5